| +First Love−前編−+ |
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だれもいない海岸を一人歩く。 周囲は人の気配も動物の気配もしない。 季節が夏だったならば、海辺で寄り添うカップルが一組くらいあったのかもしれない。 元連合海軍基地。 今も昔のまま何も変わっていない風景がそこにはあった。 (懐かしいな) そのまま奥に奥に進んで行き、昔戦艦を停留していた埠頭まで来た。 今は潜水艦はある訳もなく、ただ埠頭が見渡せる場所に立っているだけだった。 思い出すのはあの時の出来事。 深入りしすぎたリリーナの額に標準を合わす。 『さようなら、リリーナ。』 トリガーに力を込めたその瞬間―――。 鳴り響いた銃声と共にやってきた衝撃。 弾け飛ぶ銃。 そして―――。 『こういう場合、どう見たっておまえの方が悪者だろ?怪我はないかい、お嬢さん?』 初めて聞いたあいつの声。 低くもなく高くもない、ただ明るい調子だったのを覚えている。 顔が見られないように帽子を深く被り、銃口を向けたままだったあいつ。 その後、一瞬の隙を突いて銃を拾いに飛んだが、あいつの方が反応が早く2発目が右太股を貫いた。 今はもう完全に傷は塞がっており跡形もない。 太股を無意識に触っていた手を持ち上げて腰に差してある銃を確認した。 もう必要ないものなのに、未だに捨て去る事ができないでいる。 でも、もしかしたら久しぶりに使うことになるかもしれない。 ここには過去を懐かしみに来たのではない。 もう一度ここから始めるため。 無くしたモノ、欠けているモノ、いや逃がしたモノを取り戻すためここに来た。 俺はカードを呈示した。 あいつはそのカードの意味を知っている筈だ。 どう出るかはあいつ次第。 だが俺は確信していた。 あいつは……デュオは必ずここに来る。 必ずこの場所に来て俺の前に姿を現す。 俺はただそれを待ち続けるだけでいい。 戦争中、鬱陶しいくらいに纏わりついてきたあいつ。 それは戦争が終わってからも続くものだと勝手に思い込んでいた。 いつ会っても変わらないその態度、その表情、その仕草。 いきなり現れては一人で話すだけ話し、気が済めばまた帰って行く。 初めの頃は頻繁にやって来るあいつを鬱陶しいと感じたものだ。 だが徐々に俺に会いに来る間隔が長くなっていった。 初めの内は気づかなかった……。 それに気づいたのは何時頃だっただろうか……。 別に日数を数えていた訳じゃない。 ただ、ただある時ふと最近あいつが会いに来ないなと思った。 今までそんな事を感じたこともなかった俺は正直戸惑った。 なぜそんな事を考えてしまったのかと。 それからはいつしかあいつが来るのを楽しみに感じるようになっていた。 その時の俺はその感情に付いている名前を知らなかったから自分から会いに行こうとは思わなかった。 相変わらずよく話し、よく笑う。 それが鬱陶しいと感じなくなったのはいつからだったか。 もっと話を聞いていたい、もっとその笑顔を見ていたい、そう思うようになったのはいつからだったか。 だがそれは長く続かなかった。 ある日を境にデュオは姿を見せなくなった。 それはとても自然なようで、そうではなくて。 気づいたのは偶然にもカトルと連絡を取りあった時だった。 『デュオもトロワも五飛もみんな元気にやっていますよ。』 『デュオは今何をしているんだ?』 『詳しい事は分かりませんが色々と忙しいみたいですよ。話す度に仕事の内容が変わってますから。』 デュオはカトルや他の連中とは会うことは少ないが今まで通り頻繁に連絡を取り合っているらしい。 だがカトルですら今デュオがどこにいるかは分からないようだった。 もしかしなくても自分は避けられているのではないか? そんな事が頭を過る。 それからだった、俺がデュオを探し始めたのは………。 毎日パソコンと顔を合わせる日々が続いた。 時間がある時はデュオを追った。 けれど、探せど探せど見つからない。 反対に追えば追うほど逃げて行く。 追い詰めたと思ったらまたすぐに行方を晦ます。 あいつは俺が探しているのを知っている筈だ。 知っていて俺から逃げる。 何故だ?俺はまだ何もしていない。 何故いきなり俺の前に現れなくなったのか……今はそれだけが知りたい。 その思いだけであいつの行方を追った。 「くそっ!どこだ、どこにいるデュオ!!」 流石に逃げも隠れもすると言っていただけの事はある。 逃げる事に関しては超一流だ。 焦りと訳の分からない感情のままにデュオを探す事だけに時間を使った。 そして1年の月日が経とうとしていた頃―――。 「やっと見つけた。」 あれだけ時間を費やして探し出したデュオは、意外にも近くにいた。 L2コロニー。 ヒルデ・シュバイカーと共にジャンク屋を営んでいる。 髪が短くて気の強そうな女だった。 あの女と一緒に住んでいるのか……。 俺はすぐさまどうしようか考えた。 このまま直接会いにいけばあいつは必ず姿を隠す。 ならあいつに会わなければいい。 俺はデュオのスケジュールと住所を記憶しシャトルの予約状況をチェックした。 L2コロニーに降り立ってすぐ俺はヒルデのジャンク屋に向かった。 そこは小さな事務所が一つあるだけの場所だった。 隣りにはアパートが建っており人が住んでいる様だった。 事務所の扉を開けて中に入るとヒルデはそこにいた。 俺の気配に気づいたのか作業の手を止めてこちらに振り向いた。 「?!あ、あなた……。」 吃驚したのか立ったまま動かないヒルデに声を掛けた。 「久しぶりだな。」 「あなたヒイロ君よね?」 「ああ。」 何年ぶりかに見る彼女は相変わらずで、髪の毛も短く切られたままだった。 「変わっていないな。」 正直に思った事を口にした。 「君も変わってないかな。……ううん、少し柔らかくなったかな。」 そう言って優しく笑うヒルデはもう昔の様にきつい印象ではなかった。 「ヒイロ君、デュオに会いに来たの?生憎今いないのよ。」 「知っている。」 「えっ?」 「お前に頼みがある。」 「私に?」 俺はポケットから封筒を取り出した。 「あいつが帰って来たらこれを渡してくれ。」 封筒を受け取りじっとそれをみつめるヒルデ。 「渡してくれればわかる。」 「……何だかよく分からないけど、わかったわ。」 用件が済んだので俺は扉に向かった。 「えっ、ちょっともう帰るの?お茶でも飲んで行ったら?」 「いやいい。じゃぁ頼んだぞ。」 そう言って事務所を後にした。 「ヒイロ君って……変わってるわ。」 そんなヒルデの独り事はもう聞こえていない俺だった。 続 あとがき |